
国内の労働力不足を背景に、外国人材の採用を進める企業が急増しています。厚生労働省に届出のある外国人労働者は約257万人(2025年10月末時点)※に達し、過去最多を記録しました。製造業や卸売業、小売業などを中心に、雇用の裾野は年々広がっています。
一方で「採用はできたが早期離職が目立つ」「制度の整備が追いつかず、トラブルが起きている」という声は、人事の現場で後を絶ちません。
そこで本記事では、外国人労働者が長く活躍できる職場をつくるための人事制度設計のポイントを解説します。
出典:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)
外国人雇用の法的・手続きにおける基本事項
外国人雇用の実務では、まず「在留資格」と「各種届出義務」の理解が欠かせません。
在留資格の確認と就労制限
※本章は、2026年3月時点の制度・公的資料に基づいています。最新情報は出入国在留管理庁の「在留資格一覧」でご確認ください。
外国人が日本で働くためには、在留資格に応じて就労が認められていることの確認が必要です。
在留資格は、実務上、就労が認められるもの、原則として就労が認められないもの、就労制限のないものなどに分けて確認します。
就労が認められる在留資格例には、教授、芸術、宗教、報道、高度専門職、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、介護、興行、技能、特定技能、技能実習などがあります。
一方、文化活動、短期滞在、留学、家族滞在、研修などは、原則として就労が認められていません。ただし、留学や家族滞在の在留資格を持つ人は、地方出入国在留管理局で資格外活動許可を受けることで、原則として週28時間以内の就労が認められる場合があります。
また、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者などは、就労活動に制限がありません。
採用時や業務内容の変更時には、在留カードや指定書等(資格外活動許可を含む)を確認し、在留資格で認められた活動範囲に収まるかを確認することが重要です。
※上記の在留資格の例や説明は、2026年3月時点の情報です。
在留資格は制度改正により変更されることがあるため、最新の情報は出入国在留管理庁の「在留資格一覧」で確認してください。
出典:出入国在留管理庁:在留資格一覧
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/qaq5.html
雇用保険・社会保険の加入義務
外国人労働者にも、日本人と同様に、要件を満たせば雇用保険、健康保険、厚生年金保険が適用されます(一部例外あり)。
特に雇用保険は、週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある場合に加入対象となります。
※上記要件は、2026年3月時点の情報です。最新の取扱いは行政機関の案内をご確認ください。
外国人雇用状況の届出
外国人を雇用する際、また雇用した人が離職する際、企業はハローワークに対して「外国人雇用状況の届出」を行うことが義務付けられています。
雇用保険の被保険者か否かで手続きの方法が異なるため、詳細はハローワークでお尋ねください。
外国人雇用状況の届出はすべての事業者の義務です。届出を怠れば30万円以下の罰金が科せられる可能性があるため、漏れなく対応してください。
雇用契約書の多言語対応
労働者に対する労働条件の明示は法律上の義務です。外国人社員の場合は、内容が理解できる言語で説明しなければなりません。
特に次の項目は誤解が起きやすいため、注意が必要です。
- 賃金
- 労働時間
- 休日
- 残業
- 解雇事由
英語や母国語を併記した契約書や説明資料を用意することで、トラブル防止にもつながります。
人事制度設計でぶつかりやすい3つの壁
外国人の雇用で法的手続きを整えたものの、実際の業務遂行にあたり問題が生じるケースは少なくありません。ここでは、日本型の人事制度が外国人労働者に伝わらずに生じる、代表的な課題(壁)を3つ紹介します。
壁① 評価基準の不透明さ
日本企業の評価制度では、「仕事への姿勢」「チームワーク」「協調性」といった、定性的であいまいな基準を重視する傾向があります。
しかし、このように“空気を読む“評価基準は、文化的背景が異なる外国人労働者には理解できない可能性があります。その結果、「なぜ自分の評価が低いのかわからない」という不満につながりかねません。
対策として、評価基準をわかりやすい行動指標に落とし込み、具体的な行動例とともに明示することが有効です。評価面談の際は、達成目標と評価結果を数値・事実ベースで共有しましょう。
壁② キャリアパスが見えない
外国人・日本人問わず、「この会社で何年後にどうなれるか」といったキャリアパスが見えなければ、早期離職につながりかねません。
日本企業には独自の終身雇用的な慣行があり、暗黙の了解で正社員として定年までの道筋が見えているケースがあります。しかし、外国人労働者は日本の慣習になじみがないため、キャリアの道筋をより明確に言語化することが求められます。
不安を与えないためにも、入社時のオリエンテーションや定期的なキャリア面談を通じて、昇進・昇格の要件や明確なキャリアパスを具体的に示すようにしましょう。
壁③ 社内制度や福利厚生制度の周知不足
有給休暇の取得手続きや慶弔規定、ハラスメント相談窓口や育児・介護休業制度など、企業にはさまざまな制度が用意されています。しかし、せっかく各種制度があっても、外国人労働者にうまく伝わっていなければ活用されません。
対策としては、入社時研修や多言語ガイドブックなどで積極的に周知し、外国人労働者に制度の理解を促すことが挙げられます。
厚生労働省では、外国人特有の事情に配慮した就労環境の整備を行う事業者に対し、
「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」を実施しています。受給要件を満たす企業には1制度導入につき20万円(上限80万円)の支給があるため、こうした制度も活用しながら制度の環境整備を進めるとよいでしょう。
外国人労働者の定着率を高める福利厚生制度とは
人事制度の設計と同様、福利厚生制度も重要な外国人材施策です。
特にニーズがあると考えられる制度は、日本語学習の支援です。厚生労働省の「令和6年外国人雇用実態調査 ※」によると、雇用に関する課題でもっとも多い回答は「日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい(43.9%)」でした。オンラインの語学教育プログラムを提供する、定期的に日本語教室を開催するなどとして、日本語能力の向上を支援しましょう。
また、就労不能リスクへの対処も不可欠です。先ほどの「令和6年外国人雇用実態調査 ※」では、調査対象の外国人のうち、54.8%もの労働者が母国に仕送りをしていました。働けない状態になると母国の家族の生活にも影響が及ぶため、長期にわたる就業不能リスクに備える必要があります。
「団体長期障害所得補償保険(GLTD)」では、外国籍の労働者を含む全従業員を対象にした補償を用意できます。この機会に団体保険の活用も検討してみてください。
※出典:厚生労働省「令和6年外国人雇用実態調査」
人事制度を整備する3ステップ
「何から手をつければいいかわからない」という担当者のために、人事制度整備の手順を解説します。
| 段階 | タイミング | 主な対応内容 |
|---|---|---|
| ステップ1 法的基盤整備 |
採用・入社時 | 在留資格の確認、雇用保険・社会保険の手続き、外国人雇用状況の届出、多言語雇用契約書の整備など |
| ステップ2 制度の可視化 |
入社後3か月以内 | 評価基準や昇格要件の明文化、就業規則や社内ルール、福利厚生制度など各制度の多言語説明、キャリアパスの明示 |
| ステップ3 定着・エンゲージメント強化 |
6か月〜継続 | 日本語能力向上ための研修、キャリア面談の実施など |
人事制度は一度にすべてを整えて設計する必要はありません。制度を実際に運用してから見えてくる課題もあり、企業によって何がボトルネックになるかは異なります。上記の手順を参考に、段階的に設計していくことが重要です。
まとめ
外国人労働者の雇用は、単に人材不足を補う手段ではなく、企業成長を支える人材戦略の一つになっています。
しかし、制度の理解不足や文化の違いによって、トラブルや早期離職が生じる可能性は否定できません。在留資格や社会保険といった法的手続きを確実に行うだけでなく、評価制度の透明化やキャリアパスの明確化、福利厚生制度の整備など、人事制度全体を見据えた設計が求められるでしょう。
また、日本語学習支援や就労不能リスクへの備えなど、外国人労働者の状況に配慮した制度の拡充も重要です。種々の取り組みを積み重ねることが、外国人材が長く活躍できる職場環境の実現につながるでしょう。


