
顧客や取引先等が従業員に対し、理不尽な言動や不当な要求を行う「カスハラ(カスタマーハラスメント)」が社会問題化しています。2025年6月には、企業にカスハラ対策を義務付ける法律も成立しました。
そこで今回は、カスハラが従業員や企業に及ぼす影響と法改正による義務化の内容、企業ができる対策について解説します。
「カスハラ対策が法律で義務化されたらしいが、何をどう対策すべきかわからない」という中小企業はぜひ参考にしてください。
カスハラとは?正当なクレームとは何が違う?
カスタマーハラスメントとは、顧客の著しい迷惑行為などにより、従業員の就労環境が害されることです。ここではカスハラの具体例や、企業における発生状況を詳しく解説しましょう。
カスハラとは?具体的な事例
一口にカスハラといっても、企業や業界によって顧客対応の方法や基準はさまざまです。そのため、明確な定義は難しいものの、一般的には以下のような言動がカスハラに該当するとされています。
【カスハラの具体例】
● 暴言・侮辱行為:大声で怒鳴る、人格を否定する発言で罵倒する
● 威嚇・脅迫行為:「訴えてやる」など脅迫まがいの言動
● 過度・不当な要求:「1週間毎日家に来て土下座しろ」「全額返金し謝礼も支払え」など、正当な範囲を超えた謝罪や金銭の要求
● 時間拘束:電話で何時間も同じ話を繰り返す、一定時間を超えて店舗に居座るなど
● 誹謗中傷・個人情報の侵害:ネットやSNSで誹謗中傷する、個人情報を流出させる
● 性的な言動:特定の従業員につきまとい、性的な言動を繰り返す
● その他:正当な理由のない業務スペースへの侵入、店舗の器物破損など
なお、商品やサービスに何らかの問題があり、適切な方法で改善を求めることは正当なクレームであり、カスハラではありません。クレームのうち、特別過剰な要求や不当な言いがかりなどによって、労働者の就業環境が害される言動がカスハラに該当します。
ハラスメント相談があった企業の約8割がカスハラを経験
厚生労働省の調査によると、過去3年間に「ハラスメントに関する相談があった」と回答した企業は全体のうち27.9%です。相談があった企業のうち、“顧客等からの著しい迷惑行為”、いわゆる「カスハラ」に該当する事例は86.8%に及びます。
・ カスタマーハラスメントに関する相談の有無:27.9%(令和5年度)
・ 上記企業のうち、カスタマーハラスメントに該当する事例の有無:86.8%
同調査では、実際にカスハラを経験した人の勤務先の特徴も確認しています。
それによると、現在の職場でカスハラ経験がある人と経験がない人の回答差が10%以上もあった特徴は以下の5つです。
・ 人手が常に不足している
・ 残業が多い/休暇を取りづらい
・ 業績が低下している/低調である
・ 遵守しなければならない規則が多い/ 高い規律が求められる
・ 従業員が女性ばかりである
「カスハラ経験がある」と回答した人ほど、上記いずれの特徴も当てはまる職場に勤めています。
特に「人手が常に不足している」の回答差は20%もあり、慢性的な人材不足はハラスメントの有無にも強い影響を与えていると推測できます。
出所:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要(令和5年度厚生労働省委託事業)」
カスハラが従業員や企業におよぼす影響
カスハラは従業員個人の問題にとどまらず、職場全体、ひいては企業経営にもマイナスの影響を及ぼします。カスハラを受けた従業員は怒りや恐怖によるストレスにより、不眠や食欲不振、頭痛などの身体症状が現れることがあります。
こうした不調が続くと集中力や判断力が鈍るため、業務パフォーマンスの低下にもつながりかねません。
さらに不調が深刻化すると、うつ病や適応障害などを発症し、長期休職や離職につながるケースもあります。
ここで人材不足の対処を適切にできなければ、他の従業員に業務のしわ寄せがいくため、会社に対する不信感の芽が生まれてしまいます。チームワークは乱れ、職場の雰囲気は悪くなり、全体の士気も低下してしまうでしょう。
また、SNS時代では、カスハラ事例が外部に拡散され、企業の対応が批判されるケースも考えられます。従業員1人のカスハラ被害は、いつしか会社全体に波及していくため、早急な対処が必要です。
法改正で企業のカスハラ対策が義務化!内容は?いつから?
カスハラの現状に対処するため、令和7年(2025年)6月11日には、改正労働施策総合推進法が国会で可決・成立しました。これは従業員へのカスハラやセクハラを防止するための改正法で、企業にハラスメント対策を義務付け、働く人の従業環境が害されないようにするものです。
参考:厚生労働省「令和7年の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等の一部改正について」
カスハラ防止対策義務化の内容
令和7年(2025年)に改正された労働施策総合推進法では、企業は従業員のためにカスハラ対策を講じることが義務付けられました。具体的には、顧客や取引先、施設利用者といった関係者の言動により、従業員の就業環境が害されないような体制を作ることが求められています。
対策の基本的な枠組みは以下のとおりです。
【カスハラを想定した事前の準備】
1. 企業の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
2. カスハラを受けた従業員の相談対応体制の整備
3. 対応方法、手順の策定
4. 従業員への社内対応ルールの教育・研修
【実際にカスハラが起きた際の対応】
5. 事実関係の正確な確認と対応
6. カスハラを受けた従業員への配慮措置
7. 再発防止のための取り組み
8. 以上の1~7とあわせて、相談した従業員のプライバシー保護措置を講じ、相談者である従業員に対し不利益な取扱いをしないことを定め、従業員に周知
参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
義務化はいつから始まる?
労働施策総合推進法の改正は令和7年(2025年)6月11日に公布されました。施行期日は「公布日から起算して1年6か月以内」となっており、遅くとも令和8年(2026年)年度中には義務化の改正法案が施行される見込みです。
2026年の間には具体的な方針が示されるため、企業は迅速な対応ができるよう、今から職場の体制を整えておく必要があります。
中小企業が今すぐできるカスハラ対策とは
カスハラ対策の義務化を前に、「大企業のようにお金と時間をかけた体制整備は難しい」と感じている中小企業は少なくないでしょう。しかし、規模が小さい企業であっても始められることはあります。何から始めればよいかわからない場合は、以下の取り組みから始めてみてください。
カスハラ対策のファーストステップ
人員や費用に限りがある中小企業では、以下の取り組みから始めてみてください。1. 企業の基本方針明確化:経営者が「カスハラから従業員を守る」という姿勢を表明する
2. 教育・研修:厚生労働省のカスハラ対策マニュアルを元に、カスハラの定義や企業の対応ルール、顧客対応フローなどを作成。研修などで共有する
3. 相談体制を整備:カスハラ事案を受けた際、従業員が迅速に相談できる窓口を設置。相談しやすい体制を整える
企業がカスハラへの対応姿勢を明確に表明するだけでも、従業員のモチベーションや士気は大きく変わります。
まずは基本方針を明確にし、カスハラ対策のフロー作成や教育・研修をできる範囲で実施してください。
フローをもとに何度もロールプレイングを行えば、実践的なスキルが身につくうえ、相談体制も作りやすくなります。繰り返し実践することでパフォーマンスの向上にもつながるため、ロールプレイングは積極的に実施してみてください。
まとめ
カスハラの被害は、従業員の心身の健康を蝕むだけではなく、企業全体の信頼低下や業績悪化につながりかねません。法改正により、2026年度中には企業におけるカスハラ対策が義務化されます。カスハラ防止方針の策定や教育・研修の実施など、中小企業でもすぐに取り組める対策はあるため、徐々に準備を始めておきましょう。
一方で、万が一の際に従業員の生活を支える制度の整備も重要です。
GLTD(団体長期障害所得補償保険)は、従業員が病気やケガなどで長期にわたり休職したときの収入減少に備える団体保険です。働く人の「もしも」を支える制度として、カスハラ対策とあわせて導入を検討してみてはいかがでしょうか。 柔軟な働き方を健全に機能させるためにも、働く人の人生を守るGLTDの導入もあわせて検討してみてはいかがでしょうか。
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著・監修
服部ゆい
金融代理店での勤務経験と自身の投資経験を活かしたマネーコラムを多数執筆中。
子育て中のママFPでもあり、子育て世帯向けの資産形成、ライフプラン記事の執筆が得意。